制作ノートインデックスメイキング12
今回は、10月18日・20日・25日と3回に分けて行われた音楽レコーディングの様子をお伝えします。
●大オーケストラ収録 ●ジャズ編成・ピアノソロ収録 ●中小オーケストラ収録
カッティングが無事に終了し、休む間もなく、今度は音楽のレコーディングが始まった。
先日のカッティングによって仕上げられた「ふるさと-JAPAN」の映像に、いよいよ本格的な映画音楽が吹き込まれていくことになる。

前作「NITABOH」に引き続き、「ふるさと-JAPAN」の音楽を担当していただいたのが、世界的なジャズ・ピアニストとして知られるクリヤマコトさん。「ふるさと-JAPAN」では、全21曲を作曲。テーマ曲だけではなく、全編を通して、各シーンに合ったメロディを
何度か監督のイメージとの調整を重ねて作曲してくださった。クリヤさんの作る曲は、とにかく「きれい」の一言に尽きる。美しく繊細なメロディの中には、優しさと強さが
同時に存在し、透明感のあふれる世界をつくりだしていのである。

これらの21曲の楽曲を、今回は3回に分けて録音していくことになった。
★10月18日 大オーケストラ収録
〜心に響く、「生」の音色〜
この日は、東京、六本木に程近いスタジオ“サウンドシティ“で、大オーケストラの
レコーディングが行われた。オーケストラの編成は、ストリングス(弦楽器)で40人、
オーボエ・フルート・クラリネット・ファゴットなどの管楽器やパーカッションも加わって、
総勢50人の大がかりなもの。この大規模なオーケストラの指揮を引き受けるのが、
幅広い音楽活動で知られている天野正道さん。天野さんには、「NITABOH」の時にも、ワルシャワ・フィルハーモニック・オーケストラでタクトを振っていただいている。
最近では、海外でも活躍されていて、今回のオーケストラ収録の後も、すぐにアメリカへと旅立たれた。
また、今回演奏してくださる演奏者の方々は、それぞれの分野の最前線で活躍されている方ばかり。皆さんお忙しい中、クリヤさんと天野さんという、
「音のプロフェッショナル」の名のもとに、集まって下さった。

塩澤氏 渋沢氏まずは音あわせとテスト(リハーサル)から。クリヤさんや
天野さんが演奏者に指示を出す傍ら、ミキサーの塩澤さんとアシスタントエンジニアの渋沢さんが、正確な耳と操作とで、次々と録音の準備を整えていく。音楽レコーディングは、音の美しさ・完成度を追求するクリヤさん、天野さんと、映画の音楽として各シーンとの長さやタイミングが合うか、を確認してゆく西澤監督と村上プロデューサーの、いい
作品を作り上げるための静かな協同作業である。
西澤監督と村上プロデューサー

そして本番。

天野さんとオーケストラメンバーさすがに、一流の技である。ほぼ全ての曲に1回でOKが出た。 また「月の砂漠」の収録では、幻想的なアレンジを表現するためにシンセサイザーも投入された。
これは、クラッシックはもちろんのこと、
ジャズピアニストとして経験豊かな
クリヤさんだからこそできることである。
シンセサイザーの持つ音の広がりで
もって、幻想的な砂漠のシーンを見事に表現してくださった。これには西澤監督も大絶賛。 しかし、中には難しい曲もあり、何度もリテイクが出されたものもあった。すばやい弓裁きで、美しい音色を出しながら他の楽器ともタイミングを合わせるのは、想像できないほどに難しいようだ。これには作曲したクリヤさんも、「この曲は本当に難しいんだよね」と苦笑い。
それでも、レコーディングは順調に進行し、予定時間を繰り上げて終了することができた。

オーケストラが奏でる音色というのは、今どきコンピュータでも作れる音である。
昨今は、テレビアニメはもちろん、劇場用アニメですらも、コンピュータで作られた
音楽を使っている場合が多い。しかし、前作「NITABOH」に引き続き、今回の
「ふるさと-JAPAN」でも、あえて全ての楽曲で、生のオーケストラの音にこだわった。音楽は、単純に音として耳に伝わってくるだけではなく、生演奏による空気の振動が
あって初めて、脳や心に響いてくるものなのだろう。だからこそ、映像とそれらの音楽が重なったときに、見ている者が受け取る感動は、比較にならない。

西澤監督がつくるアニメーション映画は、ひとかたならない音楽へのこだわりがある。
1作目「NITABOH」も、映画音楽のクオリティの高さが評価され、チェコ映画祭に
公式招待上映された。
左から天野氏、西澤監督、クリヤ氏
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★10月20日 ジャズ編成・ピアノソロ収録
〜デキシージャズに心もうきうき〜
日本を代表するジャズメン
日本のデキシー・ジャズを代表する中川義弘さん(トランペット)をはじめ、長男の
幸太郎さん(バンジョー)、8歳でデビューしたという次男の英二郎さん(トロンボーン)、また「薗田憲一とデキシーキングス」のメンバーである白石幸司さん(クラリネット)、
楠堂浩己さん(ドラムス)、河合勝幸さん(チューバ)といった、それぞれ日本ジャズ界の第一人者の方々に集まっていただいた。
場所は前回の大オーケストラ収録から変わり、東京、世田谷のスタジオ
“クレッセント”。ここを選んだのにも、実はちょっとしたこだわりがある。クレッセントに
あるピアノは「STEINWAY and SONS」と言って、ニューヨークとハンブルグで作られて
いる超一級品である。東京のスタジオのほとんどに置かれているが、ここのは状態がいいということで選ばれた。その価値はおよそ1500万円!はじけるような細い音、硬い音がすばらしく美しく出るそうで、クラッシック曲よりは、今日収録されるようなジャズの楽曲にぴったりだと、クリヤさんの判断。曲のイメージによってピアノを弾き分ける
クリヤさんは、高級なピアノを実際に弾くときの、出会いと感動を大切にしているのだと言う。
ところで、今回「ふるさと-JAPAN」では ジャズは

・コロッケを買いにいくシーン(約75秒)
・ソフトボールをしているシーン(約114秒)
・米軍基地のある立川の風景(約14秒)

クリヤサンと入念に打合せの、3つのシーンに使われている。
3つのシーンを合わせても、
ジャズが流れる時間は3分
くらい。100分間の映画なので、全体ではジャズが使われるのはほんの少しの割合。
それなのに、これだけの一流のジャズメンを集めての収録!
なんとぜいたくなメンバーなのだろう。彼らは、今回クリヤさんの呼びかけに応えて集まってくださった。クリヤさんの音楽界での人脈の広さ・人望の厚さがうかがえる。

いよいよ収録が始まった。 一流のジャズ奏者たちは何とも楽しそう。自らが演奏そのものを楽しんでいるようだ。軽快で陽気なデキシー・ジャズのリズムに、スタジオで聞いているスタッフも自然と体が動き出し、口ずさむ。こちらが聞きほれている間に、あっけなくジャズの収録が終了。もう少し、聞いていたかったのに…。収録というよりは、
コンサートを聞かせてもらったかのような爽快感が残った。

クリヤさんのピアノソロ演奏さて、ジャズの後は、クリヤさんのピアノ
ソロ、2曲の収録。スタジオは、ジャズの
収録とはうって変わってシーンと静まりかえり、美しいピアノのメロディに、皆、一瞬息をのんだ。
クリヤさんはピアノを弾きながら、その場で自らの曲にアレンジを加えていく。 小学校の朝礼のシーンでは、テーマ曲が優しいタッチのアレンジに仕上げられた。やわらかいピアノの音色が絵と重なると、画面はさらに透明感を増していった。

大オーケストラの収録に引き続き、今回のジャズ・ピアノソロ収録もすばらしいものとなり、スタッフも大満足のうちに終了した。
監督を囲んで・・・
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★10月25日 中小オーケストラ収録
〜“弦楽器”の音色はさらに美しく〜
安部さんが丁寧にリードして 20日と同じスタジオ“クレッセント”で始まった中小のオーケストラとヴァイオリンと
チェロのソロ収録。この日はヴァイオリンやビオラ、チェロにコントラバスといった
弦楽器13名による演奏になった。今日の中心は安部慶子さん。彼女なしにはこの収録の成功はなかっただろう、と思うほどの存在で、それぞれの曲が最も輝くように、時にはクリヤさんとともに録音ルームに入って演奏をリードしてくださった。
制作者サイドにも立って、この「ふるさと-JAPAN」へご尽力いただいた。
安部さんは1作目「NITABOH」の映画音楽にも参加、また今回18日に行われた
「ふるさと-JAPAN」のオーケストラ演奏でもコンサートマスターを務めてくださった方だ。

クリヤさんはピアニスト。彼が作曲する曲は時として“弦楽器”を弾く人には難しく、
かなり高度な技量とテクニックを使わなければならない。そんな状況を安部さんは十分に理解し、「ここはこういう風に弾いたら、もっとよくなるわね」「こちらの弾き方の方が
あっていると思うのですが…」などと皆に優しくアドヴァイスしてくださる。

今日の収録は全10曲。葬式のシーンや反省するシーンなど、どちらかというとやや
重いシーンで流れる曲となったが、どれも格調高く仕上がった。
午後1時に始まったオーケストラ収録は、テストと本番を重ねて夕方6時に終了。
その後は、チェロとバイオリン、ピアノのソロ収録へ。

崎野さんも入っての打合せ

チェロの崎野さんは仲間から
“ホセさん”と呼ばれている。これは安部
さんが教えてくれた話で、以前メキシコへ演奏旅行に行ったときメキシコの衣装を着たら、すごく似合っていて、どこへ行っても現地の人から道を聞かれたという。
以来“ホセさん”と呼ばれるようになった・・・。^^
チェロのソロ演奏では、録音時に崎野さんの息が入ってしまい、もう一度。チェロの演奏は力が必要。コンサートやライブでは何の問題もないことだが、今回はなるべく息を抑えて演奏していただいた。

安部さんのソロ演奏

またバイオリンのソロ演奏では、安部さん自身どんどん弾き方のアイデアが湧いてきて毎回違った
音色をだしてくださる。
時には弦1本で弾くという高度なテクニックもあり。もちろん、納得いかない場合は、ご自身でダメを 出しクリヤさんとの検討を重ねて最高の仕上がりとなった。
さて、今回の演奏に集まってくださった皆さん、
お持ちの楽器がまた素晴らしい。
全員合わせると2ケタの億円!という。なんとも
贅沢な音色である。
クリヤさんのピアノソロ演奏を終えて、ラフミックスが仕上がった時には夜10時を
まわっていた。

今、海外の映画祭で高い評価を受けている前作「NITABOH」の音楽同様、
「ふるさと-JAPAN」の音楽にも、すばらしいものが期待できそうだ。今回、すべての
作曲と収録、またピアノソロの演奏を担当してくださったクリヤさん、その間ずっと
スタッフをバックアップしてくださった(有)ミュージックセラフの方々本当にお疲れさまでした。そして有難うございました。

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<参考資料>
クリヤマコト氏 *クリヤマコト氏
神戸生まれ。高校卒業後渡米、大学在学中から地元ライブハウスで活躍し、卒業後本格的にジャズ・ピアニストとして活動を開始する。オハイオ・ジャズ・コンペティション最優秀ピアニスト賞受賞。
2004年、パリのユネスコ本部大ホールで行われた「国際音楽の日」記念音楽祭に唯一のアジア代表として招聘される。2005年には初の欧州ツアーを成功させ、2006年も欧州ツアー及び豪州ツアーを予定。同年5月にアルバム『Paris to the moon』を発売する。『NITABOH 仁太坊〜津軽三味線始祖外聞〜』でも音楽監督を務め、好評を博した。
天野正道氏   *天野正道氏
1957年生まれ、国立音楽大学を主席で卒業。
日本におけるコンピュータ・ミュージックの第一人者であるとともに、ワルシャワ・フィルハーモニックオーケストラやヴェルサイユ室内管弦楽団などとの共演・楽曲提供など、海外でも活躍している。
また映画音楽でも、「おもちゃ」「バトルロワイヤル」で日本アカデミー賞音楽部門優秀賞を2年連続で受賞。その活躍には枚挙に暇がない。
<文・写真 西澤真佐栄>